「地域を越え、学びがひらく」
――全国47の小規模校ネットワークが育む、地域の未来の可能性
地方の人口減少や教育機会の格差が進む中、全国47の小さな自治体が「多様な越境機会づくり」という新たな挑戦を始めました。
別の町、別の学校、時には海外ともつながる学び。生徒はそこで視野を広げ、地域は新たな関係人口や担い手と出会う。この特集では、教育と地域の未来をつくる最前線の物語を、現場からお届けします。
今回は、その取り組みを先導する山形県小国町の実践を紹介します。

小さいからつながれる。つながれば、変わる
―山形・小国町 高校と地域がつなぐ全国高等学校小規模校サミット―
山形県の豪雪地帯の夏に、「小規模校」と呼ばれる高校の生徒たちが集うサミットがある。その名はそのまま「全国高等学校小規模校サミット」。会場は山形県立小国高校。企画から運営まで、同校の生徒が中心となってつくるイベントだ。2025年7月、第8回を迎えたサミットで、9県14校119人の2日間を取材した。
ファシリテーション、熊汁、花火
1日目は午後から。バスや車で到着する他校の生徒たちを、小国高校の生徒たちが迎えていく。体育館の入り口で、一人一枚ずつ、高校名と名前を書いた紙を掲げて待つ。真夏の体育館は蒸し暑く、立っているだけで汗が吹き出す。それでも目が合えば、笑顔で迎え、談笑しながらそれぞれのテーブルへと向かっていく。すでに親しそうなのは、事前にオンラインで交流を重ねてきたから。

開会式、オープニングムービー、選手宣誓と進んで、「アイスブレイク」はテーブルごとにちょっと変わったしりとり。音楽が止まった時に順番だった人にお題が出るおまけ付き。

続いて行われたワークショップでは、「ファシリテーションの基本」を学んだ上で、「無人島に3つだけ持っていけるとしたら?」という課題に挑戦する。
「ファシリテーションをよりよい話し合いの場にするためには、たくさんの意見が必要になってきます」——代表の一人が話した通り、グループごとに意見を交わし、「ちょっといいまくら」「家」などの突拍子もないアイデアに笑い合いながら、ファシリテーターがメンバーの意見を促して、大きな紙に議論の過程を記録していく。アイスブレイクも、ファシリテーションも、グラフィックレコーディングも、全て生徒たちが準備を重ねてきたものだ。

夕食はそのまま会場で。メインは熊汁。またぎ文化の根付く小国町らしいおもてなし。小国高校を支援する会会長特製の熊汁はサミットの名物になっているという。当然、熊汁を初めて口にする生徒が多く、「思ったよりおいしい!」と会話が弾む。夜は校庭で手持ち花火。誰かの火に、別の花火が重なって、また新しい会話が弾ける。制服の違い、学校間の壁も、いつの間にか小さくなったように見えた。


高知県立大方高校2年の齊藤未輝さんは「他の高校の魅力が伝わってきてめっちゃ面白かった。小規模校でも全然違うんだなということが分かりました」。西会津高校の2年生、根本爽さんは昨年のサミットが楽しくて、今年も参加したいと教員に申し出たという。「班の人たちとは全員友達になって、最高ですね。もっと作りたいです」
「人と話すのが苦手な生徒も参加しているんです」と話したのは、ある高校の教員。
「高校に入って少しずつ、知らない人と話す楽しさを知って、中学まではやれなかったことを高校ではやってみたい、と心境の変化を話すようになりました。(今回のサミットでは)最初は手も出せなかったけど、少しずつまとめの作業に参加したり、話すようになってますね。楽しく、頑張ってやろうとしている姿が見えてうれしいです」

「小さいからできない」はない
「『小さいからできない』。そんなことは絶対にない」
高校生たちの交流を体育館の隅で見守っていたのが、柿崎悦子さん。第1回サミット当時の校長だった柿崎さんが、当時のことを振り返ってくれた。
きっかけは前年に行われた岩手県立花泉高校との交流。同校の100周年を記念しての交流を持ちかけられて応じたところ、生徒たちから「またやりたい」「もっと多くの学校と交流したい」と、これまでにないほど意欲のある言葉が次々と飛び出した。「もっと集めてやろう」とひとまず翌年度の行事予定に組み込んで、準備が始まると全国の「小規模校」に電話をかけまくった。そして実現したのが、2018年の第1回サミットだった。

でも、ただ集まるだけでは続かない。「学び」に変えるために助けを求めたのが、当時、東北芸術工科大学で教鞭をとっていた岡崎エミさん(現・安平町教育委員会_子育て・教育総合専門官)。「学校側の本気を感じた」と岡崎さん。以来、ファシリテーションを中心に小国高校の研修を担うことに。今年のサミット初日に高校生たちが語った「ファシリテーション」の話も、岡崎さんの受け売りだ。
こうして生まれた第1回サミットは、生徒の主体性を引き出す大きな契機となった。「やればできる」が共有され、学校全体の空気が変わった。保健室の利用が減り、校外活動に積極的に参加する生徒が増えた。サミットは回を重ね、小国高校の代名詞とも言えるイベントになっている。

