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多様な越境機会の創出による
地域課題解決型人財育成事業

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特集|ファッションを通じて地域活性化に挑む—地元への想いと歩んだ軌跡

「地域を越え、学びがひらく」
――全国47の小規模校ネットワークが育む、地域の未来の可能性

この特集では、教育と地域の未来をつくる最前線の物語を、現場からお届けします。
「多様な越境機会創出事業」の幹事自治体である山形県小国町とともに事業を進める、市町村ネットワーク推進事務局(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム)。

今回の特集では、企業と連携したオンライン探究プロジェクトで、地域づくりに挑む高校生の軌跡を紹介します。

ファッション × 高校生 × 地域づくり

―高校生が地域を飛び越えて未来をつくる、新たな教育の現場―

ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOと、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームが連携し、全国の高校生を対象に展開した探究プログラム「ZOZO×PROJECT ~ファッションで地域を元気に!~」を開催(プレスリリースはこちら

沖縄から北海道まで、ファッションに熱い関心を持つ全国各地の高校生たちが集い、ZOZO社員による伴走支援のもと、毎月1回・全4回のオンライン対話を通じて地域課題の解決に取り組んだ。

最終発表で優秀だったチームには、ZOZO西千葉オフィス(本社屋)への招待という特典も用意されている。
今回はそのプログラムに参加した高校生の中から、石川県立能登高等学校の2人の生徒が歩んだ挑戦と成長の軌跡を追う。彼らは、ファッションという表現を通じて、地元・能登に何を見つけ、そして自分たちの未来をどう描き始めたのか。

自分の好きなファッションで、能登を活性化したい

「能登のために何かできることをしたい」 そう力強く語るのは、能登高校2年生の境谷 健太郎(さかいだに けんたろう)さんだ。

能登高校のある石川県能登町は、海に囲まれた港町であり、熱気あふれる祭りの文化が根付く土地だ。令和6年能登半島地震の傷跡は記憶に新しいが、震災に負けず、町の人々は祭りを守り続けてきた。

境谷さんもまた、釣りと祭りをこよなく愛する能登高校生の一人。「地方にはまだ埋もれた価値がたくさんある」と信じる彼は、将来、地域活性のための事業を行う経営者になりたいという夢を持つ。実は今回のプログラムと並行して、高校の授業や課外活動でも能登を活性化する複数のプロジェクトに奔走しているという。

今回のプログラムへのエントリーも、そんな「能登を元気にしたい」という純粋な熱意から決めたものだった。

そんな境谷さんの熱い思いとは対照的に、「友達に誘われたから参加したんです」と少し照れくさそうに話すのは、影田 永遠(かげた とわ)さん。同じく能登高校2年生の影田さんは、釣り、ギター、料理と多彩な趣味を持つ。美術部に所属し、美しい景色を愛する彼は、将来海外で生活することに憧れている。「千葉の本社に行けるなら」という理由で、境谷さんの誘いに乗ったのが始まりだった。
動機も性格も対照的な二人。彼らはこのプログラムをどう駆け抜けたのか。

能登の祭りって、ストリートファッションなんだ

そんなユニークな気づきから、彼らのプロジェクトは動き出した。

能登町宇出津の「あばれ祭り」は、2基の神輿と数十基のキリコが3日間にわたって夜通し町内を練り歩く、全国的にも稀有な熱狂を帯びた祭りだ。町民が総出で参加し、当日の街並みは普段とは全く違う景色に変わる。大通りを埋め尽くすのは、キリコを担ぐために法被(はっぴ)を纏った人々だ。

そんな光景を当たり前のように見て育った彼らにとって、祭りはストリートカルチャーそのものであり、法被は紛れもない「ストリートファッション」だった。

彼らが企画したのは、そんな能登の祭りの衣装を「ストリートスナップ」として撮影し、メディアで発信するというプロジェクト。地元の熱量を、ファッションというフィルターを通して外の世界へ伝えようという試みだ。

他校生との交流で身についた自信

境谷さんは高2の春に留学を志したものの、奨学金獲得のための面接でうまく話せず落選するという苦い経験をしていた。「コミュニケーション能力を上げるには場数を踏まなくては」その思いで、今回のプログラムでは積極的に発表に臨んだ。

中間発表時点で、境谷さんは他校生の発表を聞くたび、「自分たちが進めている方向性は間違っていない」という確信を深めていった。回を重ねるごとに自分たちの企画への手応えを感じ、「他校生よりも自分たちの方が良い発表ができている」と、二人は確かな自信をつけていった。

一方で、自信の裏には地道な試行錯誤もあった。二人はチームでの協働において壁にぶつかった。「慣れない役割分担が難しかった」と語る。プロジェクトはスライド作成やチラシ作りなど、一人で完結する作業ではなく、メンバーと相談し合意形成していくプロセス。「一人一人がそれぞれの役割を持って進めていく」その経験が、彼の中に新しい仕事の進め方を刻んだようだ。

そして二人は運命の最終発表へと臨む

12月3日、迎えた最終発表会。

二人が作り上げたスライドは整理されていて非常に見やすく、発表にはこれまでの取り組みから得た自信がはっきりと表れていた。境谷さんと影田さんは息の合った協力体制で、見事にプレゼンテーションをやり遂げた。

しかし、結果は敗退。目標としていたZOZO本社屋への招待を勝ち取ることはできなかった。

発表会後「しゃばいっすね」と悔しそうに強がってみせた二人の表情が印象的だった。特に、最初に境谷さんに誘われた時には飄々としていた影田さんが見せた、悔しそうな表情。それは、彼がこの数ヶ月でプロジェクトと向き合っていく中で、自信がついていたこと、そして何より最終発表での結果を求めていたことの証だった。なぜ選ばれなかったのか。冷静になった二人が口にしたのは、他チームとの決定的な差だった。

「他のチームは、実現に向けて企画を着実に実行に移していたんです」

自分たちはアイデアを磨くことに注力したが、選ばれたチームは例え小さいことでも既にアクションを起こしていた。構想を語るだけでなく、実際に形にする実行力の差をまざまざと見せつけられた瞬間だった。この敗北の経験こそが、彼らにとって何よりの学びとなった。

二人の見る未来

プログラムを終えて、二人の視点はどう変わったのか。

境谷さんは、人との関係の重要性を再認識したという。「物質的な幸せやお金だけじゃない。色んな人と関わっていく中で、能登への愛が強くなりました」これからはもっと色々な人と関わり、総合的な探究の時間など、学校での探究活動にも力を入れたいと意気込む。

「もっと色んな経験を積みたいです。アイデアが色々出てきます。僕は将来地方の経営者になりたいんですけど、お金を稼ぐ目的で事業を起こしても、それが周りから見たら復興のためになっているなら最高ですよね。まだ世間に気づかれていない価値があるからこそ、地方で起業することにはチャンスがあると思っています」

一方、影田さんは、外の世界への好奇心が加速している。「最近になって海外への興味が強くなりました。色んな景色を見てまわりたい」 それでも、能登高校生としての視点は忘れていない。

「能登高校の水産科にはウニの漁業権があるんです。学校の探究学習ではウニの殻を使ったインテリアを作っています。能登高生ならではの特権ですよね。僕は能登の海が好きです。それでも色んな外の世界も見てみたいし、その上でやっぱり能登が最高だって思ったら、そのときに帰ってきたい」と、率直な思いを語ってくれた。

未来のチャレンジャーたちへ

最後に、来年度このプログラムに参加するかもしれない全国の高校生へ、二人はこうエールを送る。

「『無理そうだからやめておこう』はナシで。とりあえず書いてみる、意見を出してみる。意見は全部出せ、そこから全てが始まるから」(境谷さん)

「計画的に、締切までの時間を考えて動くことも大事。良い機会があれば、他のプログラムにも参加していきたいと思っています」(影田さん)

見守る大人の視点から

生徒たちの変化をそばで見守ってきた、能登高校の山崎先生に話を聞いた。

「彼らがプログラムに参加して成長する様子を見ていて、改めて感じたことがあります。それは『こうした探究プログラムでの経験は、学校の中だけではどうしてもカバーしきれない』ということです。私たち教員も全力を尽くしていますが、今回のように生徒だけで探究プロジェクトを進めて、企業の方々や他校生の前で発表する機会を、学校だけで提供するには限界があります。だからこそ、積極的に外へ出ていった生徒と、そうでない生徒の間には、どうしても差が生まれてしまう。だからこそ他の生徒たちにも、こうしたチャンスに恐れず手を挙げてほしいと願っています」

山崎先生の言葉は、変化の激しい時代における教育の課題と可能性を鋭く突いていた。

「好きなこと」を入り口に、地域の大人や企業のプロフェッショナル、そして全国の仲間と混ざり合う「ZOZO×PROJECT」での日々は、境谷さんと影田さんにとって、教科書には載っていない「生きた学び」そのものだった。

地域と企業、そして学校が手を取り合うことで、若者たちの可能性は無限に広がっていく。彼らが持ち帰った熱は、きっと次のチャレンジャーへと伝播し、能登の未来を少しずつ、しかし確実に変えていくはずだ。

【撮影・記事 小澤弘壮】