「地域を越え、学びがひらく」
――全国47の小規模校ネットワークが育む、地域の未来の可能性
地方の人口減少や教育機会の格差が進む中、全国47の小さな自治体が「多様な越境機会づくり」という新たな挑戦を始めました。
別の町、別の学校、時には海外ともつながる学び。生徒はそこで視野を広げ、地域は新たな関係人口や担い手と出会う。この特集では、教育と地域の未来をつくる最前線の物語を、現場からお届けします。
今回の特集では、滋賀から宮崎へ。「地域みらい留学」で一歩踏み出した高校生の等身大のストーリーをお届けします。

地域に出たから、世界が見えた
― 滋賀から宮崎・えびの市へ、飯野高校での越境体験
「新しい世界を見るのが嫌。面倒くさい、別に知らなくていいやって感じの人でした」。そう語るのは、宮崎県立飯野高校(えびの市)3年生の長田晴太郎さん。滋賀県出身。友達の話を聞いて進路を地域みらい留学に決め、今では国内にとどまらず、世界の人身売買問題に取り組み始めている。
慣れ親しんだ滋賀から、宮崎へ。高校進学で踏み込んだ「越境」が、世界と出会うきっかけになったのだという。
ボランティアで出会った人身売買
「このまま高校に行って、大学に行って、自分のしたいことができるのかな?」
中学生の頃は、そんな不安を抱えていたという。将来の目標がなく、淡々と日々が過ぎていく。そんな時、年上の友人が地域みらい留学で沖縄の高校に進んだ話を聞いた。明るく、社交的になった友人の変化を知って、長田さんは思った。「高校で、こんなに変わるんだ」と。
進学先を調べ、探究活動に力を入れる飯野高校に惹かれて進学。知らない土地、知らない人たちばかりの環境だったが、入学して最初に驚いたのが地域の受け入れ体制だった。
「地域の方との交流がものすごく多くて、月に2回くらい。大人たちが温かく受け入れてくれて、地域のボランティアにもどんどん参加していくようになりました」

「ボランティア活動」は世界と出会うきっかけにもなった。
1年生の夏、民間団体が主催するプログラムでインドへ渡り、衝撃を受けたのが「人身売買」。社会課題をテーマにした2週間のプログラムで、街の人へのインタビューや企業見学、学校訪問などを通じて、インドの農村の現実を目の当たりにした。
「自分と同じ年齢やもっと小さい子どもが死ぬまで働かされ、抜け出せた子どもたちも人間の心を奪われたような表情の子どももいて、人生で一番の衝撃。人身売買をなくしたい、という夢がそこで見つかりました」

ビジネスを地域で学ぶ
人身売買をなくすため次に目指したのが、ビジネスを学ぶこと。
「日本に戻って調べると、人身売買は世界中にありました。狙われるのは農村の子どもたち。雇用がなくて貧しいから狙われると聞いて、雇用を生みたいなと考えると、まずはビジネスを学ぶ必要があるなと。とにかく、いろいろなイベントに参加するようになりました」
宮崎の大きな祭りでは、特技を生かして醤油ラーメンを作り販売した。2日間で200杯を販売し、11万円を売り上げ、東京での人身売買対策活動に参加するための資金につなげた。

ボランティア活動も地域を飛び出して広がっていく。
三重、福岡、大阪……。出向いた先での新たな出会いも多かった。高校2年生の春には、大地震のあった能登半島のボランティア活動に参加。活動先を紹介してくれたのは、これまでに出会った人たち。つながりがまた、つながりを生むようになっていた。
宮崎に帰って募金活動をすると、38万円も集まった。これまでにない手ごたえだ。
変えてくれたのは地域の大人
「自分の知らない価値観を聞き、共有するのが楽しい」と長田さんは語る。「自分の世界が広がっている感じがします」
新しい挑戦に消極的だった中学時代を振り返ると「以前は周りの目を気にして、こう思われるしやめておこうと思っていた」という。その長田さんが、今では積極的に新しい環境に飛び込んでいく。「いまは周りの目が気にならなくなって、自分の好きなように生きられる。やりたいようにできるようになったのが一番大きいです」と語る。

控えめだった長田さんを変えたのは、新しい環境と地域の大人たちだ。
えびの市の河川敷を拠点にまちづくりに取り組む「NPO法人KRAP」の大人たちに加え、高校に所属するコーディネーター武井恒介さんらが、地域とのつながりや探究活動をサポートしてくれた。
「自分を知らない人しかいない地域へ来ることで、環境が全部違うことが大きかった」と長田さん。地域の大人たちも、自分たち高校生をよそ者ではなく、「一緒に何かをする仲間」として迎えてくれた。その姿勢がうれしくてボランティアにのめり込み、知らない人と話すことが自然とできるようになった。
「地域の人たちがめちゃくちゃ優しくて温かい。僕たちを歓迎してくれているのが分かって、うれしくて、どんどんボランティアに参加するようになって、大人と話すのも意外といけるなってなりました」
「地域みらい留学は新しい世界を見るチャンス」
進学先はこの春新設されるCoIU(Co-Innovation University)。岐阜県を中心に各地が拠点となる新しい形態の大学だ。ビジネスを通して社会課題を学ぶカリキュラムに惹かれ、在学中には、えびの市での活動もしたいと考え、将来的には、人身売買のある地域で雇用を生み出す起業を視野に入れている。
「地域みらい留学、いまの中学生にもめちゃくちゃ勧めたいですね。将来に迷っている人、一歩踏み出せない人たちは絶対に行った方がいい」と長田さん。「地域の大人たちが温かくてチャンスがあります。地域みらい留学は、新しい世界を見るチャンス、経験するチャンス——そういう場所です。飯野高校に来ていなかったら、こんなにもいろんな人と出会って、知らない世界を見ることがまずもうなかったのかなと思ってますね」
地域みらい留学や小規模校同士のネットワークを通して、こうした経験が全国各地へと広がっている。では、越境した高校生たちは、地域の高校は、どう変化してきているのだろうか。そんな数的評価が、3年間、延べ34万人の高校生を対象にした大規模調査で明らかになりつつある。

※写真は本人提供。
(次項)に続く
