2026年9月18日、全国各地で多様な越境機会の創出に取り組む自治体・高校・地域の実践者が東京・赤坂に集まり、「市町村ネットワークフォーラム」を開催しました。
今回は、地域みらい留学などの取り組みを推進してきた一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム(CPF)の設立10周年という節目にもあわせ、これまで各地で積み重ねられてきた実践を振り返りながら、これからの地域と教育のあり方を考える機会となりました。
人口減少が進む中、地域の教育環境をどのように守り、発展させていくのか。そして、これまで積み重ねてきた取り組みを、一過性の事業で終わらせず、持続可能な仕組みへと育てていくには何が必要なのか。こうした共通の課題に向き合うため、各地域の関係者が集い、それぞれの実践や課題を共有しながら、今後の連携のあり方を考える一日となりました。

「大人自身も、越えて行こう」― 小国町・仁科町長の挨拶
フォーラムの冒頭では、広域連携事業の幹事自治体を務める山形県小国町の仁科洋一町長が挨拶されました。仁科町長は、地方創生関連交付金による事業が折り返しを迎え、今後の自走化を見据える中で、一つの自治体だけで財源や運営体制の課題を解決することの難しさに言及されました。だからこそ、自治体同士が連携し、それぞれの経験や試行錯誤を持ち寄りながら、次の一歩を模索していくことが重要であると語られました。
さらに、生徒たちに「越えて行こう」と呼びかけるのであれば、私たち大人自身も、自治体や組織の枠を越えて挑戦していく姿勢が問われている――。
「越えて行こう」という言葉を、生徒たちだけでなく、私たち大人自身への問いとして受け止める。そんなメッセージとともに、フォーラムが幕を開けました。

一つの学校から、全国へ。高校魅力化のこれまでと、次の挑戦
続くメインセッションには、地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の岩本悠が登壇しました。
その原点にあるのは、存続の危機にあった島根県・隠岐島前高校の魅力化です。地域外から生徒を受け入れ、地域全体で学びを支える取り組みによって、生徒数や地元からの進学率が回復。さらに、卒業後のUターンや地域経済への波及効果も生まれました。こうした実践は、やがて全国各地の高校や地域へと広がっていきました。
一方で、少子化がさらに進むこれからの時代、一つの学校、一つの地域だけで多様な学びの機会を提供し続けることには限界があります。だからこそ、学校や地域の枠を越え、それぞれの強みや資源を持ち寄りながら、学びの可能性を広げていくことが求められています。
そこで岩本が紹介したのが、全国の小規模高校がつながる小規模高校ネットワークスクール構想です。
各地域の高校が持つ特色ある学びを全国で共有し、さらに企業や大学、社会人、海外ともつながることで、一つの学校だけでは実現できない多様な学びを共につくっていく。地域にいながら、全国、そして世界へと学びのフィールドを広げる新たな挑戦です。「学校=一つの校舎」から、「全国が学びのフィールド」へ。
これまで積み重ねてきた各地域の実践を土台に、個々の学校や地域の魅力化から、地域同士がつながることで新たな教育の可能性を生み出す段階へ。高校を核とした地方創生の次の10年を見据えた展望が示されました。

地域への「人の流れ」をどう広げるか ― 総務省からの情報提供
総務省 地域力創造グループ地域振興室の田中佑典氏からは、「人の流れの創出・拡大に向けた取り組み」をテーマに情報提供をいただきました。
地域おこし協力隊や地域活性化起業人、ふるさとワーキングホリデーなど、都市部の人材や企業の力を地域につなぐ制度・事例が紹介されました。地域の担い手を地域内だけで確保するのではなく、企業人材や若者など外から関わる人との接点をつくり、継続的な関係へ育てていく。
若者世代の新たな人の流れを、より広い地域づくりへどうつなげるかを考える時間となりました。
クロストーク①「何もないから始められない」ではなく、今あるものから始める
最初のクロストークのテーマは、山形県小国町と北海道福島町の実践者が登壇し、多様な越境機会の創出に向けて、「ゼロから挑戦を始めるために、本当に欠かせなかったものは何だったのか」を語り合いました。
そこで見えてきたのは、十分な環境が整ってから始めたのではなく、むしろ高校存続への危機感など、「後がない」状況から動き始めた地域の姿でした。

寮がない、人がいない、地域の理解が十分ではない。そうした状況でも、既存の宿泊施設を活用したり、行政と教育委員会が役割を分担したり、地域の協力者を一人ずつ増やしたりしながら、受け入れの形をつくってきました。
完成した仕組みを最初から用意するのではなく、地域にある人や資源を生かし、試行錯誤しながらつくっていく。そのプロセスそのものが、新たなプロジェクトを立ち上げる力になることが共有されました。

クロストーク②「選ばれる学校」をつくることは、地域の未来をつくること
2つ目のクロストークでは、「『選ばれる学校』とは何か?―生徒の越境と成長は、地域に何をもたらすのか?」をテーマに、北海道大空高等学校の大辻雄介校長、宮崎県立飯野高等学校の梅北瑞輝先生が登壇。広島県立大崎海星高校のコーディネータ―の取釜宏行さんが進行を務めました。
大空高校からは、「越境」「探究」「主体的・対話的で深い学び」を通じて、生徒の主体性を育む教育実践が紹介されました。地域外から生徒を集めるためだけでなく、その学校でどんな学びができるのか、生徒がどんな挑戦や出会いを経験できるのかという「教育」の視点から考えることの大切さが浮かび上がりました。
また、一つの学校の中に閉じず、学校や地域を越えて学ぶことは、生徒自身の視野を広げるだけではありません。地域の大人や学校側にも新しい問いをもたらします。生徒の越境と成長を、地域の未来へどうつないでいくのか。地域への効果は自動的に生まれるものではないからこそ、教育と地域づくりを意識的につなぐ必要があることも、次の論点として共有されました。

自分たちの「現在地」を確かめ、次の挑戦を考える
フォーラム後半では、地域・教育魅力化プラットフォーム共同代表の尾田洋平が登壇。「意志ある若者を育む、持続可能な地域・社会をつくる」をテーマに、これからの地域との関わり方や、新たな挑戦の方向性を語りました。
広域連携のネットワークによって、取り組みが全国に広がる一方で、地域によって、その現在地も、直面する課題も異なります。取り組みを始めたばかりの地域もあれば、これまでの成果を土台に、持続可能な仕組みづくりへと進もうとしている地域もあります。
だからこそ、地域だけでは解決が難しい人材や財源の課題に対して、人材のシェアやデータ活用、企業連携など、さまざまな資源や仕組みをつなぎながら、新たな挑戦を支えていく方向性が示されました。
そして、フォーラムは参加者同士の対話へと移ります。
「あなたが、いま越えたい壁は何ですか?」
「来年度、どんな挑戦をしてみたいですか?」
二つの問いをきっかけに、地域も立場も異なる参加者が、それぞれの課題や現在地、これから実現したいことを語り合いました。
参加者からは、日々の実践から少し離れて取り組みの「原点」を確かめられた、自分たちが「今どのフェーズにいるのか」を見つめ直す機会になった、地域を越えたつながりから前向きなエネルギーをもらった、といった声が聞かれました。
一つのつながりが新たな出会いを生み、その出会いが次の挑戦へとつながっていく。フォーラムは、知見を共有するだけでなく、地域を越えて学び合い、ともに未来をつくる仲間とのつながりを育む場となりました。

「挑戦や失敗も含めて学び合う」― 海士町・大江町長の閉会挨拶
一日の締めくくりには、島根県海士町の大江町長から閉会の挨拶をいただきました。
海士町では、高校存続への危機感から隠岐島前高校の魅力化に取り組み、全国から高校生を受け入れる「島留学」をスタート。その実践が地域みらい留学として全国へ広がり、各地で新しい挑戦へとつながってきました。
大江町長からは、地域外からの高校生を受け入れることは単に生徒を呼ぶ取り組みではなく、地域を越えてきた若者が成長し、その若者との出会いによって学校や地域の大人も変わっていくものだというメッセージが寄せられました。海士町自身も「大人の島留学」「親子島留学」などへ挑戦を広げ、さらなる新たな挑戦を進めています。
人口減少の時代、地域や高校が抱える課題に一つの正解はありません。だからこそ、一つの自治体、一つの学校だけで考えるのではなく、自治体や学校、地域の境界を越え、挑戦や失敗も含めて学び合う。
今日生まれたつながりが、それぞれの地域での「次の一歩」につながっていくことへの期待が語られました。

フォーラムの続きは、懇親会へ
フォーラム終了後は、懇親会を開催しました。全国各地から集まった皆さんが、セッションでは語りきれなかった思いや、それぞれの地域での挑戦を語り合う時間に。久しぶりの再会を喜ぶ姿や、地域や立場を越えて新たなつながりが生まれる場面が、会場のあちこちで見られました。
地域や学校が抱える課題は、一つの現場だけで向き合っていると、解決の糸口が見えにくくなることもあります。けれど、同じような悩みや志を持つ仲間と出会い、経験や知恵を分かち合うことで、新たな可能性が見えてくることがあります。
「また一緒に何かやろう」「今度はそちらの地域に行ってみたい」。
そんな会話から生まれる小さな一歩が、やがて地域を越えた新しい挑戦につながっていく。フォーラムで交わされた対話は、懇親会でさらに深まり、これからの地域をともにつくる新たなつながりへと広がっていきました。
