「地域を越え、学びがひらく」
――全国47の小規模校ネットワークが育む、地域の未来の可能性
地方の人口減少や教育機会の格差が進む中、全国47の小さな自治体が「多様な越境機会づくり」という新たな挑戦を始めました。
別の町、別の学校、時には海外ともつながる学び。生徒はそこで視野を広げ、地域は新たな関係人口や担い手と出会う。この特集では、教育と地域の未来をつくる最前線の物語を、現場からお届けします。
今回は、その取り組みを先導する山形県小国町の実践の＜後編＞を紹介します。
小さな町が幹事自治体に
2025年度は、そんな小国高校が「ハブ」となることが、新たに一つ増えた年になった。
それが「多様な越境機会事業」。小規模な高校のある全国の自治体が広域に連携し、地域や学校の枠を越えた学びの場をつくる取り組みだ。主に、地域外から高校生が通えるようにする地域みらい留学を基盤に、進化・発展させる事業となっている。
小国町は2025年度からこの事業の幹事を務めることになった。小国町を含む47自治体（組合含む）が参加し、事業費は総額約39億円。そんな大規模事業の国・参加自治体との調整を小国町が担うことになったのだ。
背景には、人口減少や進学機会の制約といった小規模校の共通課題がある。地域みらい留学の仕組みによって、外から生徒を受け入れることは一定の成果を生んできたが、地元の生徒にとっても多様な価値観と出会い、異なる地域や都市部の仲間と協働する経験を増やしていくことが目的なのだという。
小国町教育委員会の高校魅力化推進室主幹、渡部由美さんはこう話す。
「高校がなくなってしまえば、町の子どもたちは中学卒業後に町外に出るしかなくなる。町の活気もなくなってしまう。でも、今の小国高校は『やりたいことを応援してくれる学校』と認識されつつある。自分の思いを人に伝えるスキルを身につけていて、こういう研修を自分も受けたかったなと思うくらい。高校魅力化が続けられるよう、財源確保に向けて動いていきたいです」
2日目 ― 対話の深まり
サミット2日目は、各校の自己紹介や活動紹介が中心だ。「地域の人と一緒に祭りを続けています」「小規模だから一人の役割が大きい」。発表に耳を傾ける生徒たちは、自分の学校との共通点や違いを見つけながら、自然と比較や問いを深めていた。
「同じ悩みを持つ人がいると知って安心した」「うちの学校にしかない良さに気づけた」。発表を通じて生徒たちは自己理解を深めていった。
ある参加生徒は「地域外の人と友達になるのは初めて」とうれしそうに話し、別の生徒は「少人数だからできないことが多いと思っていたが、小規模だからできることもあると改めて分かった」と語った。
裏方の実行委員も成長を見せた。「統括」と呼ばれるまとめ役を担った今実優さんは「人前で話すのは緊張したけれど、やってよかった」と振り返り、同じく統括で広報を担当した長谷川遙さんは「サミットが初めての1年生もいる。初めてだと緊張しちゃうじゃないですか。大丈夫かなと思っていたけれど、想像以上に高校生から意見が出ていて、話しやすい場がつくれたのだと思う」と笑顔を見せた。
「今年もやる？」から始まるサミット
会場には、さまざまな形でサミットを支える人たちもいた。同窓会副会長の二村強さんは子どもたちが小国高校を卒業。PTA会長を務めた縁で、今も学校に関わっている。生徒数が減る中で、同窓会メンバーとも視察を重ねてきたという。
「地元の意見も変わりつつある。いろんな活動をして、町でも取り上げられるようになって、行政も協力してくれている。町を挙げて支えられるようになってきていると思います」
小国高校の高2留学を経験した若者の姿もあった。高校2年時の1年間を小国高校で過ごした一柳帆花さん（現・大学2年生）は、「誰かと協力して何かをやる」が経験できたサミットは当時のいい思い出だと言う。お世話になった小国町の人に会う目的も兼ねて、サミットに参加。高校魅力化の取り組みに可能性を感じていて、今では出身地域の高校のコーディネーターを務めているという。
同町出身で高校3年間を小国高校で過ごした伊藤琥次郎さんもサミットに参加した。
「サミットがあることで、遠い地域の高校生ともつながることができる。1年生の時は緊張して全然喋れなくて、もっとしゃべっておけばよかったな、と2年生ではコアメンバーとして参加。こんな活動は他の高校じゃできない。（今の高校生も）うらやましいです」
「何か今の高校生にアドバイスはある？」と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「楽しいことはいくらでもある。でも、もっと楽しくするためには、自分のアクションが必要。楽しいと思ったことには積極的に関わって、自分の道、視野を広げてほしいです」
小国高校の山科勝校長は「サミットの場では、大人が主導しなくても生徒が伸びていく。私たちは信じて環境を整えるだけです」と語る。「高校としては、高校生を地域でどう育てるか、生徒に外の世界を見せるには、とやっていて、そこが町と合っている。合わせようとすると歩けなくなりますよ。合わせているのではなく、合っている。歯車が噛み合っている。だから、続けられています。サミットはゴールじゃなくて、トリガーです」
小規模校サミットはまさにその実践だ。開催の可否も生徒たちが決めていて、毎年、サミット後に「来年もやる？」と尋ねるのだという。1年生が「やりたい」と答え、翌年にはその世代が中心となり、また新たな1年生が関わる。そんな循環がつながってきたから、今回の8回目がある。
「ほら、目が変わってますよね」と山科校長。「みんな、すごいいい目をしている。もっと学校をよくしたい、とそれぞれの学校で思っている子たちが集まっている。それぞれの学校に戻ってからも、生徒たちは頑張れるんじゃないかな」
閉会式 2日間の変化は
迎えた閉会式。全員で集合写真を撮って、振り返りのムービーを見て。代表の生徒のあいさつには体育館全体が沸いて、集まった100人超のエネルギーが、前日よりもずいぶん大きくなったことが分かる。
サミットの統括を務めた小国高校の今さんは、最後のあいさつをこう締め括った。
「この2日間、小規模校だからできることを数多く学びました。今後の学校生活や日々の生活にいかしていきましょう。また、この場所でお会いできることを楽しみにしています」
取材後には「去年はもじもじして話せなかったけれど、今年は自分から積極的に話しかけて友達ができた。小規模校だからできることはまだまだあると思うので、後輩たちにも引き継いでほしい」とも話してくれた。
生徒たちは変わっていく。それぞれの地域で、それぞれのやり方で。小国高校がつないできたサミットが、変化のハブになっている。
【関連リンク】
■小国町役場
https://yamagata-oguni-shiroimori.jp/
■全国高等学校小規模校サミット実行委員会 Facebook