地域を越え、学びがひらく」
―全国47の小規模校ネットワークが育む、地域の未来の可能性
地方の人口減少や教育機会の格差が進む中、全国47の小さな自治体が「多様な越境機会づくり」という新たな挑戦を始めました。
別の町、別の学校、時には海外ともつながる学び。生徒はそこで視野を広げ、地域は新たな関係人口や担い手と出会う。この特集では、教育と地域の未来をつくる最前線の物語を、現場からお届けします。
今回の特集では、地域みらい留学校を調査した担当者が語る、高校魅力化評価システムから見えてきた未来をお届けします。

越境の効果「可視化」― 地元生徒にも変化
「越境」の効果は、数字にも現れている。地域・教育魅力化プラットフォームは2026年4月、地域みらい留学の教育的効果の詳細レポートを発表した。明らかになったのは、地域みらい留学参画校の生徒に複数の項目で特徴的な成長が見られ、地元生徒の成長にも寄与していること。
「地域みらい留学の効果を定量的に可視化したかった」と調査の担当者は語るが、いったいどんな結果が出たのだろうか。
〇2026年4月28日プレスリリースはこちら
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過去3か年分のデータをもとにした高校生34万人の調査概要版
34万人対象の大規模調査
この調査は、2022年度からの3年間で延べ約34万人の高校生を対象にした大規模な調査だ(2024年度は358校約計12万人)。このうち、地域みらい留学校は延べ177校、約2万3千人に上る(2024年度は74校計9,325人)。
「経験談として語られてきたことを、数字で実証できたというのが大きい」と語るのは、大手コンサルティング会社から出向し、今回の調査分析を担当した地域・教育魅力化プラットフォームの大野晴香さん。
前回記事で紹介した飯野高校の長田晴太郎さんのような個人の成長物語は、これまでも数多く語られてきた。しかし、地域みらい留学の取り組みが個人の成長にどうつながっているのかを、定量的な調査で証明することはできていなかった。
そこで生まれたのが、この調査プロジェクト。2019年に始まり、コロナ禍での中断を挟んで、2022年に調査が再開。3年分のデータを基にした効果検証が実施された。
ウェルビーイングが育まれ、地元生徒にも成長
大野さんによれば、参画校は他の高校と比較して、地域資源や地域の大人と関わる機会が多く提供されており、地域のボランティア活動や行事への参加が積極的に行われている。さらに、「自分の暮らす地域のために役に立ちたい」といった地域貢献意欲や、「日本の将来は明るいと思う」「現在の日常生活に不安がない」といったウェルビーイングが育まれている傾向が確認できたという。
さらに注目すべきなのは、地元生徒の「非認知能力」。これらの能力が高校3年間で伸びたと考える生徒の割合が、全国平均を大きく上回る伸び率だった。

最も顕著だったのが「複雑な問題を順序立てて考えることが得意だ」という、いわゆるロジカルシンキングの項目。全国平均の伸び率が6.1ptだったのに対し、地域みらい留学校の地元生徒は11.4ptと、ほぼ倍の数値となった。
地域みらい留学生の数値も平均を上回ったが、この数字(10.3pt)をも上回る。
その他にも、「自分にはよいところがある」という自己肯定感(+10.9pt)や、「多くの立場から考えようとする」多角的な視点(+10.3pt)といった項目でも、全国平均を大きく上回る成長が確認された。
大野さんは「非認知能力がいろいろな項目で伸びている。高1時点では全国平均を大きく下回っていた項目が、高校3年間の間に大きく伸び、差が縮まっている。これは本対象区間だけの現象なのか、地域みらい留学を通して具体的にどのような非認知能力が伸びる傾向にあるのか、継続的な調査を通じて裏付けをしていく必要があると思っています」と分析する。

成長の鍵は地域とコーディネーター
では、なぜこのような変化が生まれたのか。
調査結果の中で特徴的だったのがコーディネーターの存在だ。
「地域と学校をつなぐ存在のコーディネーターがいる高校では、学習活動・学習環境の充実度が高い傾向にあった。過去のレポートでも触れられてはいたけれども、それを裏付けられるような結果となりました」と大野さんは言う。
コーディネーターが配置されている学校(配置校)と、そうでない学校(非配置校)を比較したデータでは、主体性・協働性・探究性・社会性のいずれの観点でも配置校は非配置校よりも3年間の伸びが大きく、特に、学習活動の探究性は非配置校ではむしろ低下する傾向が見られるのに対し、配置校では着実に向上している。
「学習活動・学習環境が豊かなほど、生徒の資質・能力を高めるという過去の調査結果を踏まえると、コーディネーターの存在が生徒の非認知能力の伸びに寄与しているとも考えられます」というのが、大野さんの分析だ。

地域の課題は
一方、「課題が見えてきた」とも言う。「この地域を将来暮らす場所としておすすめできるか」という問いについてだ。
地域みらい留学生は、高校1年生の時点では地域に高い期待を持っているが、3年生になるとこの数値がやや低下する傾向が見られたのだ。「3年間を過ごす中で、雇用の機会や利便性といった地域の現実を知ることが影響しているのかもしれません」と大野さんは言う。
同じく地域・教育魅力化プラットフォームの田中りえさんは「高校生が地域に根付くかどうかは雇用の問題もありますが、卒業後に定住はしなくてもその地域に関わり続けたいという生徒が一定数存在することも事実です。自治体の方々には、単に入学生の確保にとどまらず、卒業後も多様な形で関係を持ち続けてもらえる関係性をどのように育んでいくのかという、長期的な視点がこれまで以上に求められていると考えています」と話していた。
今回の調査全体を振り返り、大野さんはこう話す。
「今後も継続的にデータを収集し、今回見られた傾向が普遍的なものなのかを検証していきたいです。さらに、卒業生にも焦点を当て、高校3年間で育った生徒たちが20歳、25歳と大人になる過程でどう変化を遂げているのかを、本評価システムの結果と掛け合わせて見ることで、高校時代の経験がその後の人生にどのような影響を与えているのかについて検証でき、より長期的な視点での効果を明らかにできると考えています」
※ 「地域みらい留学生」とは、出身中学校を「高校と異なる都道府県に所在する中学校」と回答した生徒を指します。
※ 本分析は、2022~2024年度に高校魅力化評価システムに回答した全国の高校生を対象としています(延べ回答者数 約34万人)。
※ 高校魅力化評価システムにおける定義、分析対象、集計項目および算出方法の詳細については、お問い合わせください。
